『チョコレートコスモス』恩田陸 【bk1】

来月はロミロミが文庫化ですか…。恩田陸唯一の挫折本。思えばこの辺りから恩田陸に対する見る目が変わってきたんだよなあ。
それはそれとして、本書『チョコレートコスモス』は、恩田陸が久々に「ミステリ」というニュアンスを真っ向から無視した作品で、二人のうら若き女優を中心に据えた「女優小説」というか「舞台小説」なわけです。まあ、演劇を題材に扱われると、どうしても色々言いたくなるわけですが、今回はその部分に関してはかなり自制(したつもり)。
ぶっちゃけ面白くはあった。ただ、それはもう小説として面白いとかストーリーが面白いとかそういうことではなく、「面白い話だとわかっているから面白い」みたいな感じ。
まあ、『チョコレートコスモス』でググってレビューをいくつか読んでみればわかると思うんですが、必ずといっていいほど『ガラスの仮面』という言葉が出てきます。いうまでもなく少女マンガ演劇部門の金字塔である美内すずえのあの作品です。っていうか宣伝文句にすら入ってる。
要するに『ガラスの仮面』という既に面白さが保証されている(最近は迷走していますが)作品を下敷きにしているわけで、面白いのは了承済みなんですよ。もちろん、そこには恩田陸の語り口という地金があってのことですが、ハッキリいってしまえば目新しさはないし、下手な作家がやったら批判口調で「所詮は小説版『ガラスの仮面』」といわれかねない。ちゃんと面白かったから許されてるけど。言い方を変えれば、原作にかなり手を加えて映画化、もしくはテレビ化した作品が「映像化としては成功した」といわれてるのと同じことで、「舞台を現代(『ガラスの仮面』も現代だけどさ)に置き換えて小説化」なわけですよね。言っとくけどパクリとかそういうことじゃないですよ。ただ、巷の評価も含めて、この作品の面白さはそこにあるんじゃないのか、ということです。それがいいのか悪いのかは別の話。
確かにオリジナルストーリーだし、ヒロイン二人の造形もマヤと亜弓とは微妙にことなります(亜弓はまんまか)。ただ、「演劇」という世界に対する過剰な盛り上がり感と、そういう部分でのリアリティの欠如という点では本作と『ガラスの仮面』はまったく同じなんだよね。
私自身もプロの演劇世界や芸能界を知ってるわけじゃありませんが、それにしたってこんなに健全な世界と向上心だらけの世界でないことはわかります。その架空の世界を舞台にして、二人のヒロインを設定した時点で『ガラスの仮面』といわれるのは当然のことで、結局何がいいたいかっつーと、この作品の面白さは『ガラスの仮面』ありきだし、もっといえば『ガラスの仮面』のが面白いよね、ってことです。それがとにかく気になってしまった。というかこの描き方って『ガラスの仮面』がなくても納得されるものなのかなあ。その辺が知りたい。
語り口はいつもながら巧いです。スラスラ読めます。でもね、結局『ガラスの仮面』+語り口、だけの作品なんだよなあ。
凄く気になったのは、視点がコロコロ変わる割りにそれがぜんぜん活かされていない点。神谷はまだしも、巽の視点って都合上以外の意味はないよね。というか、この劇団「0(ゼロ)」の内幕的要素も全然活きてないし。それは結果としていつもながらの「締めのグダグダ感」に起因するわけだが。主人公である飛鳥がゼロとどう繋がっていくのかが見えれば意味もあるんだろうけど。結局終わりがいつもながら「続きと続きは永遠に」みたいな感じだからなあ。まあ巽は桜小路くんとして出したかったのかもしれんが。
それだけ視点がコロコロ変わるのに、ヒロインである飛鳥の生い立ちだけがいきなり第三者視点というか神の視点(の割には馴れ馴れしい口調)で語られる。このバランスの悪さ。小説の構成としてはどうなのよ、と思ってしまう。
全てにおいて結論が出ていない、という部分に関してはいつものことだし、それはそれで面白いからいいんだけど、この『チョコレートコスモス』というタイトルに関する後付け処理だけは「はぁ?」って感じでした。なによそれ。無理に意味づけとかされないほうがまだマシだった。タイトル落ちとしては『BG、あるいは死せるカイニス』以来の衝撃でしたよ。
なんかとても痛烈なことばかり書きましたが、「面白い」ということは事実です。だから「それだけでいいじゃん」という意見にも首肯します。ただ、言いたいことは言っておこう、と思ったので書きました。ここ数年、恩田陸に対して感じているもどかしさもそろそろ頂点になってきたので。
それにしても今でも「演劇」や「芸能界」に対する信仰にも似たこういう感覚というのが堂々とまかり通っている、というのが個人的には衝撃。いや、もちろん皆さん「ホラ話」として楽しんでいるとは思うんですが、そういう点では笑い所が随所にある作品だったなあ。野田秀樹としか思えない演出家とかが出てきたときは笑いまくりましたよ。しかも「金の林檎」って。最近『エースをねらえ!』とか『アタックNO.1』がリメイクされたのがわかる気がします。まさかそれを小説で読むことになるとは思いもしませんでしたが。
でもここまで書き過ぎたら逆になんか自分が反省したくなった気分だ。恩田陸が演劇に過剰な期待をしているように私も恩田陸に過剰な期待をしすぎなんだろうか。

チョコレートコスモス

チョコレートコスモス