『銃とチョコレート』乙一 【bk1】

小学校時代、図書室に通いつめて『怪盗ルパン』シリーズを読み漁っていた、あの記憶が蘇ってきた。うん、これはまさに「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」ミステリだ。ここには確かにルパンがいたよ。
少年リンツが住む国では「怪盗ゴディバ」が次々とお宝を盗み出し、それを追う国民的ヒーロー・名探偵ロイズの話題で持ちきり。当然、リンツもロイズのことが大好き。ひょんなことから怪盗ゴディバに関する文書を手に入れたリンツは、憧れのロイズに出会うことになる。そしてロイズとともに怪盗ゴディバを追いかけるのだが。
という、一見したあらすじはまさしくジュヴナイル。ただし、そこは乙一ですから、二転三転、色々と仕掛けがあるし、チョコレートのような苦味も用意されている。
わかりやすくも、スリルと興奮に満ちた展開、裏切りと信頼、そうしたものが本書の中には満ち溢れている。本当に童心に返ったような気持ちでワクワクドキドキしながら読むことが出来た。
最初のうちはどうしても『神様ゲーム』の記憶が残っていて(私はこの二冊しかミステリーランドを読んでいないので)、「乙一も漢字をひらいて、子どもを主人公にするくらいしか気を遣ってないのかなあ」と思ったんだけど、随所に挟み込まれる主人公リンツへの悪口を見て、「いや、やっぱり子どもが読むことを意識しているな」と思った。その点でもさすが。
まあ、挿画がいちいちおどろおどろしいのも(母親はいくらなんでも怖すぎる)、ジュヴナイルにふさわしく、何度も言うが、自分が少年だった頃に戻ったような気がした。この本を手にとって一心不乱に読んでいる子どもの姿が目に浮かんでくるようだ。
書店で一目見て「お、この装丁いいなあ」とも思った一冊。これまでのミステリーランドとは一線を画したおしゃれなデザイン。それもまたいい。ただ、そんなところに何かを汲み取ってしまうのは逆に擦れた読者なのかもしれないが <お前だよ。

銃とチョコレート (ミステリーランド)

銃とチョコレート (ミステリーランド)