2006 FIFA WORLD CUP グループD メキシコVSイラン

メキシコのサッカーは美しい。
サッカーとは走るスポーツであり、パスを出し、受けるスポーツであり、ボールを奪うスポーツであり、ゴールを決めるスポーツである。その全てにおいてテクニックとメンタルの両面が噛み合ったチーム、それがメキシコである。
セルビア・モンテネグロとオランダの試合が静かな玄人同士のサッカーだったのに対し、この試合は序盤からトップギア、目まぐるしい試合展開となった。とにかくボールの動くスピードが早い。ゴールからゴールまでがあっという間だ。それもロングボール一発とかではない。3人4人と人を経由するのにこの早さ。そのメキシコに負けないスピードで対抗するイラン。さすがにアジアナンバーワンである。フィジカルに勝るイランがスピードでも負けないのであれば、勝機は充分ある、そう見えた試合だった。
展開としてはその通りで、序盤優勢だったのはイラン。しかし、そうした状況でも決して焦ることなく、淡々と自分達のサッカーを続けるメキシコ。そしてセットプレーからワンチャンスを見事にものにする。これがメキシコのメンタリティ。
しかしイランも負けてはいない。本来体格とフィジカルで勝るわけだから、その有利を活かし、セットプレーでお返し。前半は1対1で終了。イランは互角以上の戦いをしたかのように見えた。
しかし、メキシコのメキシコたる所以は後半から始まる。後半開始と同時にいきなり二人の選手を交代。これには正直「えっ!?」と思ったが、これがまず当たる。暑さと慣れないハイペースでの前半を通したイランは後半ゆっくりとしたペースで戦いを進めたかったはず。しかし、フレッシュな選手を二人入れ、ますますペースの上がるメキシコ。イランは完全に防戦一方。そこでさらにメキシコは一枚カードを切る。さらにイランが押し黙ったと思うやDFラインからマルケスが前線へ。もはやリベロですらない、FWからウィングから縦横無尽にピッチを駆けるマルケス。この展開についていけなくなったイランは、一つ一つの玉離れも遅くなり、そのミスを突いてメキシコが得点。
そうなのだ、メキシコと同じペースで戦える国など他にない(あるとすればアメリカ)のだ。イランは序盤攻勢に見えて、完全に消耗した。ダエイとゴルモハマディという35歳オーバーが二人いたのもきつかっただろう。監督は少なくともどちらかは代えるべきだった。あまりにも疲労していた。
そして終盤にとどめの三点目。メキシコのスピードに完全に置いていかれたイランDF陣は、センタリングの邪魔も出来ず、二人のFWにも振り切られていた。
戦力的にイランが劣っていたとは思わない。むしろ海外での経験やドイツが舞台ということを考えればイランが有利な部分もあったはずだ。しかし、これがメキシコの強さ、美しさなのだ。全てが連動しているから無駄な体力を使わない。彼らは確かにスタミナがあるが、決して無尽蔵ではない。11人全てが連動し、意味ある走りをしているからこそ最後まで走りきることができる。このサッカーでコンフェデではブラジルも破ったのだ。
ここまで登場した各国にそれぞれに、持ち味というか「これがこの国のサッカー」という形らしきものはあったが、メキシコはその中でも「メキシコサッカー」というものをハッキリと見せつけた。そしてこのサッカーをメキシコは少なくとも30年以上続けている。平均身長が180センチに満たない国のサッカーとしてこれに憧れを抱かずにいられようか。