『親不孝通りディテクティブ』北森鴻 【bk1】

武勇伝武勇伝。
日記にも書いたが、読み出して早々にこの物語の二人の主人公、鴨ネギコンビことテッキとキュータがオリラジ(オリエンタルラジオ)のイメージになってしまい、最後までオリラジの顔を思い浮かべながら読んでしまった。
テッキとキュータがそこまでオリラジに似てるか、といわれれば、実際はそうでもない。おそらく本書を読んだ人の多くはオリラジを思い浮かべるようなことなく読むだろう。ただ、自分の中で、テッキとキュータ、そしてオリラジの双方に「こうだったらいいな」的な部分があって、それが符合してしまった結果なのだと思われる。
ま、そんな個人的なことはどうでもいいとして、本書は北森鴻お得意の連作短編集。博多の屋台を舞台に、相変わらずシニカルだがユーモアと人情をミックスして、ほろ苦いながらも決して後味は悪くない物語を描いている。
東京での挫折(これが最終話を過ぎても隠されているのは今後への含みか?)を経て故郷の博多へと戻り、屋台の主人におさまっているテッキ。高校時代の恩師の伝で結婚紹介所の調査員として働くキュータ。冷静な判断力と洞察力を持つ(年寄りむした)テッキと、便所の100ワットと呼ばれる無駄な明るさと行動力で事態を混乱させるキュータ。このコンビが博多の町で身近に起きる事件を様々な理由から処理していく。
ミステリのネタとしては小粒だし、『花の下にて春死なむ』や『メインディッシュ』のような切れ味はないのだが、それでも北森鴻お得意の「視点のズレ」といったものを活かし、義理人情に熱い(誤記にあらず)街(勝手なイメージ)である博多という舞台を生かした人と人との交わりを加えることでそこはそれ読み応えのある作品に仕立て上げている。
新鮮なのはやはりテッキとキュータのコンビ。北森鴻作品ではあまりみないキャラクター同士の組み合わせである。クールで推理力のある料理人、というキャラクターは北森作品ではお馴染みだが、荒事もこなすのは珍しい。そして、おちゃらけキャラで女好き、計算とか計画という言葉とは無縁というキュータはまさに異色。そして、腐れ縁とはいいつつも、この息のあったコンビが騒動を巻き起こし、解決していく様はなかなかに楽しい。
北森鴻ですからある程度の安定は言うに及ばず、それと同時に「北森鴻がこんな感じの作品を」という楽しみもできる意外におススメな作品。小粒でもピリリと辛い、という北森鴻の面目躍如の一冊です。
ところで本書の解説を、北森鴻の公式サイトの管理人の方が書いています。こういうのが少しずつ増えてきた気がしますね。

親不孝通りディテクティブ (講談社文庫)

親不孝通りディテクティブ (講談社文庫)