『とめはねっ!』河合克敏 【bk1】

そういえば感想書いてないことを思い出したので、かなり遅ればせながら書いておく。
帯をギュッとね!』、『モンキーターン』と、マイナースポーツの世界を描きながらも、それを一般の読者に楽しませてしまう当代随一のマンガ家・河合克敏の新連載。今度のテーマはなんと「書道」マイナースポーツどころかスポーツからも離れてしまった。
しかし、それでもマンガとしてしっかり面白くしてしまうのが河合克敏の素晴らしさ、技量である。カナダからの帰国子女で、なよなよとした自分に自信を持てない高校生男子を主人公に、字が汚い女子柔道のチャンピオン、一癖も二癖もある先輩といったしっかりしたキャラ立てを配置。展開の中に書道の知識を当てはめていくことで、ストーリーにはまるのと同時に書道の世界にも深く入り込んでいくように自然となっている。今後は文科系スポ根として展開していくのだろう。
なぜ河合克敏のマンガがテーマの割りに、多くの人に共感を得て、そして何度読み返しても面白いマンガとして成立するのか。それは、スポ根とギャグ、というマンガとしての見せ方はもちろんあるんだが、それ以上に登場人物たちが等身大である、ということが大きい。これまでの二作は『少年サンデー』という連載誌らしく、いわゆる「必殺技」とかがまったくでない、いわゆるファンタジックな要素のまったくない古典的スポ根である。主人公も決して飛びぬけた天才ではなく、むしろライバルに天才型を配置することで主人公の努力が描かれる。勝つこと、それよりもその過程を楽しめるからこそ、何度読んでも、勝負の結果がわかりきっていても楽しめるマンガなわけだ。
主人公が努力の結果、導き出すのは「技を磨く」という地味ではあるが、非常に説得力のある答えであり、そういう意味ではハッキリとした結果の見えない「書道」という題材であっても河合克敏の持つ長所を活かせばなんら問題がないだろう。
だからこそ、このマンガが『少年サンデー』ではなく『YOUNGサンデー』で連載していることには違和感を覚える。高校が舞台だし、エロ要素は多分皆無だろうし、読者層的にはヤンサンよりもサンデー向きであることは明らかだろうに。その辺は政治的な部分もあるのかもしれないが、もったいないという気持ちもある。
全然関係ないけど、個人的に『帯をギュッとね!』で最も好きな台詞、というか場面を引用しておく。単行本最終巻、全国大会決勝で浜名湖高校副将・斉藤と千駄ヶ谷学園副将・橘が闘った時の斉藤のモノローグである。こういう熱い台詞を吐ける青春って素晴らしいよなあ。

「全国大会決勝で相手は日本一をとった高校生。こんなに燃えられる舞台は一生に何度もねえだろう!」

まあ、そういうことなのでいうまでもなくオススメです。

とめはねっ! 鈴里高校書道部 1 (1) (ヤングサンデーコミックス)

とめはねっ! 鈴里高校書道部 1 (1) (ヤングサンデーコミックス)