『衛星都市へのサウダージ』ヨーロッパ企画

作・演出:上田誠、出演:石田剛太、酒井善史、諏訪雅、角田貴志、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力松田暢子、山脇唯
「バック・トゥ・2000」企画の掉尾を飾るSF芝居。誰もが宇宙に出られるようになった近未来。惑星アルカディアに入植するため、移民船に乗り込んだ人々たち。希望を持って移民する人、身重の妻と別れ単身赴任する人、左遷なんだか栄転なんだかよくわからん人、研究のため赴く人、それに付いて来た人。それぞれの思いはあれど、旅は道連れ世は情け、ヨーロッパ企画がお送りするSF珍道中。いやー、笑った笑った。
セットが『オースティン・パワーズ』みたいだったり、ロボットが出てきたり(マジで動く)、超ひも理論ガガーリン、とSFっぽさ満点ですが、やっていることはいつものヨーロッパ企画の芝居といい意味で変わらない。一隻の船に乗り合わせたメンバー達が織り成すヌルーイ人間模様。思ったよりもSF色、オタク色は薄く、そこはあえて上田誠がセーブしたのか。個人的にはもっとオタク臭くてもよかったかな、とは思うが一般人にはあれが限界なのかも。
今回も映像がふんだんに使われて、各人が宇宙へと出て行く心の内が流れたりするんですが、これはちょっと物足りなかったかな。
映像もそうだけど、芝居の中でもそれぞれ全員にちゃんと光が当たるようエピソードが用意されていたりして、そのせいもあってやや時間は長め。で、どうしてもその分各エピソードがあっさり目になってしまうのが勿体無かった。まあ、この芝居の目的自体が「一口に宇宙っていっても人の数だけ宇宙への思いいれはあるんだって」みたいなところにあるんでしょうから、それはそれで仕方ないとはいえ、それとは別に一本芯の通ったストーリー(大した話じゃなくてもいいから)が通っていればより面白くはなったような気もします。
前回の『冬のユリゲラー』に引き続き、土佐がよかった。多分、2003年から見始めて、後から入ったせいもあるけど、一番成長してて、それが最近急上昇中だからそう思うのかもしれないけど、いやホントよかった。ああいう愛すべきチンピラっていうのがやれるのは素晴らしい。
本多力が、いつものマッシュルームカットではなく、長髪・ヒゲ面で出てきたから驚いた。松田さんは最近誰かと付き合う役が多いけど、大概相手はろくな相手じゃなかったりする。今回はまあ土佐が好演したこともあり、まだよかったけど。ただなんつうか、それがなんとなく受け入れられてしまうキャラなのが不思議というかファンとしては心配というか。
中川さんは相変わらずのしまらないツッコミを見事に演じていて笑えた。酒井さんは…なんて不憫な人なんだ。毎回毎回こういう役を酒井さんにあて書きする上田誠はヒドイ。いくらなんでも酒井さんがMだとしてもヒドイ(勝手にMにしてる私も私だが)。だが、それが笑えてしまうのだから客もヒドイ。ただまあ、今回の正論は本当に正論だっただけに、周囲全てが酒井さんを否定するシーンはちょっとだけ嫌な気持ちがした(ワープの話ね)。というか酒井さん、『インテル入ってない』ではロボットに振られ、今回は宇宙にまで…。誰よりも宇宙を愛しているのに、どこまでも不憫すぎる。
そんなこんなで気軽に見れて笑って楽しめる一作。「バック・トゥ・2000」はどれもそういう感じだったかも。最近は上田誠の脚本がなんだか考えちゃう方向にいっている気もするので、個人的にはこういう「らしさ」を満喫できたという点でこの企画は成功だったと思う。まあ、最近のも好きなので、バランスよく見させてもらえれば一番なんですけど、というのは客のわがままですが。
でもホント、彼らは楽しそうでいいよね。素直に羨ましい。