ポップカルチャーにおける蓄積と時系列と進化と成熟

Twitter上でも話題になっている、「江口寿史先生の「マンガの背景」論と、マンガ家たちの反応。」のまとめを読んで、2ヶ月ほど前に映画『キック・アス』を見たときに感じた感想と似通ったものを感じたので、それを残しておく。

特に目新しい話ではないが、思考整理としてまとめておくのは悪いことではあるまい。


キック・アス』は正直とても面白かったのだが、同時に見たときに感じたのが、「これはオタクレベルでいうとどの程度のレベルの人を対象としているのか?」という疑問。もちろん、エンタテイメントとして基本軸がしっかりとしているから、多くの人、それこそオタクですらない人でも楽しめるとは思うのだが、その最大幸福度として、どの程度のオタクレベルを設定しているのか、という話。

主人公が「なろう」とするキック・アスというヒーローは突然生まれたりはしない。スーパーマンに始まる数多くのスーパーヒーローの系譜を経て、さらにはアメコミの世界だけでなく、実写映画として数多く出現したスーパーヒーロー達がいたからこそ、「自分もなれんじゃね?」という発想に至るわけだ。
そうしたストーリー部分だけでなく、セリフや小道具、衣装に至るまで、アメコミを知っていれば知っているほど楽しめるようになっている。
すなわちこの映画は、「アメコミ」というジャンルの蓄積がなければ生まれなかった映画であり、同時に蓄積があればあるほど楽しめる映画であったということだ。


で、「漫画の背景」論に関してなんだけど(こちらについては主題が色々と移り変わっていることもあるし、今さらその中に入って行こうとも思わないので、この論の本質自体には触れないとして)、途中いわゆる「世代」論として展開される部分が出てくる。その後「単なる世代論で終わらすなよ」という指摘も出てくるのだが、いわゆる単純な「世代論」でなくとも、それに近い「蓄積論」とか「時系列論」てきな部分はあるんじゃないのかな、とも思ったわけだ。

『アイ・アム・ア・ヒーロー』や『おやすみプンプン』は私は読んでいないし、江口寿史も個別の漫画を叩きたいわけではないと思うのだが、私もどちらかといえば写実主義よりもデフォルメを好むし、岩明均マンセーの立場としては、江口寿史岩明均に対する言及はまさしくその通りだと思った。

ただ、それが単純に40代の自分は世代的に江口寿史に近いから、という話なのかというとそうでもないのでは、とも思う。たとえば同じ40代でも、漫画を読み始めたのが遅かったり、私とは読んでる範囲のマンガが違っていれば、そこには違った好みが発生しているのではないか。
しかし、それが単に「好み」という話ではなく、前提となる蓄積、時系列は存在しているのではないか、ということだ。

花沢健吾浅野いにおの立場からいえば、そもそもなぜそういった背景を書くようになったかも含めて、それまでの蓄積や時系列があるのであり、それはおそらくファンにも同じことがいえるのであって、世代とか逆に言えばピンポイントで語ってしまえるものでもないような気がする。


で、なんでこんなことを書いているのかというと、これってマンガもそうだけど、小説も音楽も含めて文化的な生産物にとっては結構大事な話なんじゃねえの、って思ったから。

音楽や絵画は昔っから存在しているとはいえ、一般庶民も含めて非常に多くの人間が享受するようになるのは、それこそテレビやラジオが出てきてからだったりするわけで、そう考えるとこの5、60年の間に様々な文化的生産物は一気に消化(消費)されるようになった。
音楽でいえば、大衆曲から演歌、フォーク、ニューミュージック、ロック、アイドルポップス、バンドブーム、小室、ラップ、みたいな流れがあるわけだし、マンガでいえば『宝島』から、というか手塚だけでもスゴイ勢いで進化して、マガジン、サンデー、チャンピオン、ジャンプの時代があって、その間にはガロもCOMもあるし、少女マンガだって花の24年組から、りぼん、マーガレット、そして白泉社を経由してBLまで行き着くわけだ。

そうした中で、「知ってる者」と「知らない者」の間で差が出てくるのは当然である。
一つの例でいえば『ガラスの仮面』を連載開始当初から読んでる人間と、最近になって読み始めた人間の間ではおそらく、感じ方は変わらぬ部分と全然違う部分があるはずだ。そしてこの「全然違う部分」というものを果たしてないがしろにして、文化の進化や成熟はあるのか、という話である。

で、さらにいったん出発点に戻ってみると、なんでこんなことを考えるようになったのかというきっかけは、やはり私がミステリ者の端くれだからだろう。


とここまで長々書いて疲れたので続きはまた今度。
こういう結論まで行き着かない、自分の頭を整理するためだけのダラダラとした考察(というほどのもんでもない)だけを垂れ流したエントリが今後はこのブログのメインになりますので、よろしくお願いいたします。