『営業と経営から見た筑摩書房』菊池明郎

「出版人に聞く」シリーズの7巻目。
これはもう出版業界に関わる人は全員読んだ方がいいと思う。
筑摩書房という会社は不思議な会社で、決して規模は大きくはないし、売り上げ的にも業界では上位というわけではない、中小出版社であるにも関わらず、この業界においては常に重要な役割を果たしている。
実際、本書の著者(聞き取り本なので厳密には著者ではない)である菊池明觔(現筑摩書房会長)も書協の副理事長をはじめとして様々な出版関連団体で役員に名を連ねているし、菊池以外でもそうした業界団体で中心となって活動している筑摩書房の人間は多い。
そして、本書でも登場する松田哲夫と田中達治という二人の人物はいうまでもなく、90年代以降の出版を語る上では重要な人物である。
そう考えると筑摩書房という会社は出版物を作るのと同時に、こうした人材を作ることにも長けた会社なのだと改めて思う。
小田光雄によるインタビューは、正直筑摩に対する思い入れがやや強すぎる嫌いはあるが、そうした筑摩の風土という部分を菊池から引き出す意味においては大いに貢献している。
そして、筑摩を語る上で外すことのできない「倒産」事件についても、当時の状況、そして再生までの動きも含めハッキリと語られているのがまた面白い。
しかし、「出版業界に関わる人は読んだ方がいい」と私が言うのはそうした面白さゆえではなく、倒産という必要にも迫られ、同時に「人」を作り出してきた筑摩書房がこれまで挑戦してきた内容が「なぜ」という理由と「どうやって」という手段と共に語られているからだ。
今現在出版業界はある意味で全ての出版社が倒産の危機に立たされているといっても過言ではない。そして電子書籍の登場など、業界自身のパラダイムシフトが起きつつある中で「なにかを変える」、下手すれば「全てを変える」ことが求められている。
そうした状況下で、筑摩書房が「営業」という分野においてこれまで行ってきた大きな変革は大いに参考になると思うからである。
というよりむしろ、これを読んで「何かを変えなくては」とか「自分が動かなくては」と思わない業界人は正直どうかしていると思う。
自分自身は出版社の人間ではないので、中から何かを変えていくことはできないが、業界に携わる人間として、何かを変えていきたい、とあらためて感じた。というか最近ずっとそういうことばかり考えてきたので、大いに勇気というかエネルギーをもらった。

営業と経営から見た筑摩書房 (出版人に聞く 7)

営業と経営から見た筑摩書房 (出版人に聞く 7)