蹴球微熱 EURO2004

チェコが…ネドベドが…。ネドベドってバロンドールは獲ったけど運に見放されてるよなあ。どこかで「ファウルしちゃいけない」という迷いがあって集中力を欠いていたせいもあるかもしれない。ネドベドが怪我で退場した時点で勝負の針は大きく傾いた。
そうはいってもギリシャは素晴らしいチームだ。レーハーゲルという監督の凄さを今さらのように思い知らされた。もちろん選手も素晴らしいが。自分達の戦術を完璧に選手たちに教え込ませ、それを実践させるというのはやはり監督の手腕によるところが大きい。「それで勝てる」という結果と信頼があってこそだが。このチームはまったくといっていいほど穴がない。後半の半ばを過ぎても、それどころか延長に入ってさえも走る走る。身体を投げ出す。とにかく頑張る。その姿には感動すら覚えるね。戦術的には怪我から復帰したジャンナコプロスを投入してから前線でのリズムを変えることに成功。延長に入ってからは完全なるギリシャペースだった。14分を過ぎたところでCKになった時、「ああ、これがゴールデンゴールになるな」という予感がしたよ。ホントに決まった時は驚きよりも諦観という感じでした。
さて、チェコの敗因はなんなのか。もちろんネドベドが負傷退場したのは大きい。しかし、ブリュックナーの「タイポロジー」によれば、ロシツキーネドベドの位置に上げることでそれはある程度計算できるはずであった。しかし、そのタイポロジーにこそ落とし穴はあったのだと思う。チェコというチームの基本は「このチームでこのサッカーをやれば必ず勝てる」という考えに基づいている。だからこそ、その「完璧なチーム」を維持するがためのタイポロジーなのだ。ネドベドがダメでもロシツキー、誰かが欠けたら誰かで埋める。もちろん、ネドベドやコラーの完全なる代役はいないが、それでもチームとしての形は大きさ(破壊力)以外は変わらない。
だがここで初めて「完璧なチーム」が通用しない相手に遭遇したのだ。例え先取点を獲られようと、前半を相手ペースで進められようと、いつのまにか自分達のペースに持ち込み勝つ、その論理が通用しない相手、それがギリシャだった。通常ならこうした時、選手交代、または戦術変更で活路を見出す。事実、レーハーゲルはそうしたし、緒戦で躓いたポルトガルも大会中に大胆な変革をすることで決勝まで上がってきた。しかしチェコというチームは完璧であるがだめに、その代替案はないのだ。選手を変えても、それはタイポロジー上は同じ役割を果たすだけ。完璧なチームであるが故に変わりの戦術もない。選手たちは「このままでは崩せない」と感じていたかもしれないが、それは初めて感じる焦りであっただろうし、ブリュックナーとしては計算外だっただろう。仮定の話ではあるが、もしコラーをハインツに代える(タイポロジー上はコラーの代わりはあくまでもロクベンツ)とか3トップにするとか、完璧なチームを思い切って振り捨てる覚悟があれば結果は違うものになっていたかもしれない。
しかし、これもまたブリュックナーという「学者」の観点からすれば「このチームは完璧ではなかった」という結論に至るのだろう。私見ではあるが、彼は勝つことよりも「完璧なチーム」、という答えを探しているにすぎないのだと思う。勝ち負けはその理論の証明に過ぎないのではないだろうか。
これで決勝戦の顔合わせはポルトガルギリシャという開幕戦とまったく同一のカードとなった。長いEUROの歴史の中で初めてではなかろうか。緒戦で破れ、大会中に改革を施し徐々にチームとして上昇してきたポルトガル。対して緒戦から一貫して自分達のサッカーを貫きここまで上がってきたギリシャ。対照的な2チームだが、共通しているのは両者が名監督を擁していることだ。開幕戦の時は圧倒的にポルトガル有利の声が多かった。現時点では五分五分、いや実際に勝利したギリシャの方が上かもしれない。開催国がその期待に応え優勝するのか、それともアテネイヤーという記念すべき年に初めての勝利、初めてのグループリーグ突破という初物尽くしのギリシャが初優勝まで掻っ攫っていくのか。おそらく誰一人として予想しなかった決勝戦のカードだが、それでも楽しみで仕方がない。今年のEUROのなんとかドラマチックなことか。