K-1 WORLD MAX 2004

新王者となったプアカーオや決勝で敗れた魔裟斗について語る前にどうしても言っておきたいことがある。
もう二度と小比類巻は出場させるな!。一昨年のガオラン戦の再現というが、あの試合は私がこれまで見てきた格闘技の試合の中でもワーストの一戦だった。つまらないとかそういう問題以前に闘いの最中に戦意喪失してしまう選手をリングに上げるな。それがプロの最低条件だ。格闘家としても敵に背中を見せるということは「いつでも殺してください」と言っているのと同じである。自分で背中を向けておいて背後から攻撃を受けると「反則だ」とレフェリーに助けを乞うなど唾棄すべき行為である。
とにかく私は『K-1 WORLD MAX 2002』以来、小比類巻のことが大嫌いなわけだが、K-1谷川貞治)は日本人という理由だけでなぜか彼を優遇しているのがまた気に食わない。緒戦のザンビディス戦では私がザンビディスのファンだということを差し引いても判定の段階でジャッジの一人は小比類巻に30ポイントを与えた。ありえないだろう。第三ラウンドはイエローカードまで受けているのだ。それで30ポイントって贔屓の引き倒しにも程があるってもんである。とにかくファイターとして勝てる相手にだけ得意になって勝てない相手からは逃げてしまうような選手はもういらない。
さて、漸く本第に入ろう。そんな感じで緒戦から気分最悪だったわけだが、その他の試合はかなり面白かった。判定が多くなったのは残念だが、それだけレベルが拮抗したということだし、そのレベルがとても高かったので満足である。新王者プアカーオは緒戦のジョン・ウェイン戦がダイジェストだったものの、優勝候補にも挙げられていたジョン・ウェインに判定勝ちということで評価をぐっと上げた。ジョン・ウェイン得意の右ストレートはプアカーオの度重なるミドルにより、腕ごと殺されていたように見えた。そして、準決勝の小比類巻戦では完膚なきまでに身体と心を痛めつけ完勝。スゲーいい気分だった。この時点で蹴りの強さと首相撲の強さが半端でないことはわかっていた。ただ、スピードの点では魔裟斗有利は動かないな、とも思っていた。
対する魔裟斗は緒戦のナラントンガラグ戦で苦戦。失うもののないナラントンガラグはとにかく強引に前に出るし、パンチを上半身ごとぶん回してくる。おまけに体幹が強いせいかダメージをあまり受けない。クラウスのパンチを受けきった実績は伊達じゃなかった。とはいえ魔裟斗もチャンピオンの肩書きは伊達ではない。パンチのスピードは凄まじく早い。テレビの画面でも左ジャブが見えない時があったよ。今の魔裟斗ならボクサーの世界ランカーとやっても勝てるんじゃないだろうか。ただ、そのスピードと自信が仇になったのも確か。動体視力が上がったせいでディフェンスが向上し、より少ない動きで躱せるようになったせいか、逆に動きが少なくなってしまった。それが顕著に出たのが真っ直ぐに下がってしまう癖。今までなら円の動きで躱していたのが、練習の段階ではその必要がなかったせいだろう。同じように練習ではスパーリング相手が魔裟斗の顔にパンチを当てることは殆どなかったに違いない。そのせいで、顔面の皮膚の耐久力が落ち、腫れ上がりやすくなってしまっていた。ナラントンガラグのパンチも準決勝のクラウスのパンチもある程度は当たっていたが、いくらなんでも腫れ上がりすぎである。魔裟斗は自信を持って「今の俺が一番強い」と言っていたが、その強さが逆に仇になったともいえる。
クラウス戦でも基本的にナラントンガラグ戦と経過は同じ。スピードで圧倒、しかし自信があるばかりに真っ直ぐ下がったり、必要以上に相手のパンチを受けすぎた。結果的にはそれが決勝でのスピードダウンとガス欠に繋がってしまった気がする。それと、あのレベルになるとスピードのあるパンチでピンポイントを打ち抜きKOを奪うのは至難の業だということだろう。出場選手の中でも魔裟斗の腕回りは明らかに一回り二回り細かった(あと小比類巻もだが、奴はパンチを殆ど出さないので意味がない)。あのスピードを維持しつつ、パンチ力も増すのは困難かもしれないが、そこまでやらないとなかなかKOはとれないだろう。
そして決勝、魔裟斗のダメージは確かに大きく、武器となるスピードも明らかに落ちていた。しかし、それでも光ったのはプアカーオの強さだった。これまで温存していた恐るべき前蹴りの威力。二年前、魔裟斗自身も村浜に対し、前蹴りの連打でスピードと距離を完全に殺したことがある。それを見事にプアカーオにやられた。また、プアカーオの構えは真っ直ぐ向かってくる相手を受けるには最適で、魔裟斗にとっては噛み合わせも悪かった。これまでの魔裟斗なら周りを動いてローとパンチの上下のコンビネーションということもできただろうが、強くなった弊害ともいうべき真正面からの攻撃はプアカーオに全て殺されてしまった。それでも本来のスピードが生きていれば、と思わないでもないがそれがワンデートーナメントの怖さだし、両者とも条件は同じなのだから言い訳にはならないだろう。
これで遂にムエタイが優勝したわけであるが、本来ムエタイは強い。2002年の第一回MAXの時だって優勝候補の筆頭はガオランだった。しかし彼がクラウスに破れ、翌年サゲッターオが魔裟斗に敗れることでムエタイは評価を下げてしまう。今回はムエタイ復権が為ったともいえるが、改めてムエタイの強さを思い知らされたというのが本音である。
これでMAXは三大会全て異なるチャンピオンが生まれ、決勝での顔合わせも全て違ったものになっている。ある意味では群雄割拠だし、強い選手が次から次へと出てくるわけで、展開に苦しみ膠着状態に陥った感のある本家ヘビー級よりも益々面白くなってきた。魔裟斗は来年再び日本代表戦を闘わねばならなくなる。おかげで小比類巻が決勝トーナメントに出てくることはなさそうで嬉しいが、魔裟斗がどこまでモチベーションを保てるのかが唯一の気がかりだ。MAXもいいがこの階級のワンマッチをもっと頻繁にやって欲しい。とにかく見たいカードが目白押しなのだから。
最後にKID対安廣戦。ダイジェストだったのが歯痒いくらいに面白そうな闘い。K-1ルールと総合ルールのミックスラウンドという変則マッチもさることながら、空手家の安廣が総合ルールでKIDをタップ寸前まで追い込むなど見所満載。これは全部見たかったなあ。最後は総合での自力に優るKIDが勝ったわけだが評価を上げたのは安廣だろう。彼の今後の試合にも注目したい。しかしあのフロントチョークから抜け出すKIDはさすがだと思った。恐るべし背筋力。