『生首に聞いてみろ』法月綸太郎(ISBN:4048734741)

2004年の『このミス』と『本格ベスト』の見事2冠を征した法月綸太郎の久々の長編。その栄誉に敬意を表して2004年の読み納めに選んでみました。
某所の感想では「華がない」という意見が多かったと小耳に挟んだが、法月作品に華を求めてもいかんと思うので、個人的には地味というか地道な話でも問題ないと思う。だが、華はなくとももう少々盛り上がりとか起伏があってもいいんじゃなかろうか、というのが私の感想。
正直いってそれほど入り組んでもいない(そこそこ入り組んではいるが)、この程度の話でどうしてここまで長くなっちゃったんだろうか、というのが読み終えても不思議なのである。かといって無駄な部分が多いかといわれると、そうでもない気もする。感覚的に長く感じただけ、というわけでもないのだが。申し訳ないが、「長いなあ」と思いながら読んでいました。
一番の理由はおそらく会話が殆ど全て状況説明に費やされていて、やたらに長く、ト書きなどでテンポを変えるなどの配慮がないため読みづらいのだと思う。たまーに軽妙ぶった台詞とかもあるんだけど、失礼を承知でいえば本気なのかわざとスベってるのか判断できかねた。推理小説において、推理を展開するときの長々とした説明を如何に処理するかというのは大きな命題なんだけど、そこんところの処理がイマイチでした。同じ長編でも『頼子のために』とかは人称のせいもあるかもしれないが、その辺がもっと巧いこと処理されていて読みやすかったのになあ。本作はちょっとクドイ。
で、クドイと思わせるほどに推理を細かく展開したり、横道を潰したりしているわけで、一見ロジックも完璧に見えるんだけど、個人的には「ええーっ」って感じ。いくらなんでも無理ありすぎ。葬式とかなかったのかよ、と。小説世界の登場人物関係だけで考えちゃって、現実世界との繋がりを意識しなさ過ぎだと思う。こういうこと書くと「ミステリの楽しみ方をわかってない」とか言われそうだけど。ただ、そのロジックの「見せ方」に関しては面白いと思った。あと動機の一部は私好み。だけど、こういう芸術絡みの事件としてはまあありがちかも。それでも好きだけど。
作品自体の話とはズレるけど、本作が『本格ミステリベスト』の1位だってのには納得がいくんだが『このミス』の1位ってのはどうなんだろう。別に『このミス』がミステリの裾野を広げるという意識の元に投票されているわけではないのは理解しているが、それでも『このミス』1位っていうブランドは確かにあって、だから読んでみようって人も沢山いるはず。そうした人で、ミステリマニアじゃない人がこの作品を読んだときどう思うか考えると、「うーん」と言わざるを得ない。っていうかエンタテイメント分野の作品を含んでの投票で、ホントにこれが1位なのかっていう気分にもなる。まあ、投票した人たちは純粋に自分が面白いと思ったものに投票してるわけだから言っても詮無いことなのはわかっているんだが。