『砂漠』伊坂幸太郎(ISBN:4408534846)

ハイ、ワタクシ嘘をつきました。
2005年のベスト本ですが、やっぱりこの作品です。そう、伊坂幸太郎の『砂漠』これしかないですよ。え?いまさら何を言ってるのかって?仕方ないじゃありませんか。今こうしてレビューを書こうとしたら「この小説が好きだ!」しか書けない自分がいるとわかったからですよ。理屈じゃないよ!。
五人の男女(+1)の大学生の青春群像。安っぽい言葉ですね。そう、それだけ。それだけなんですけど滅法いいんですよ。もうたまらなく愛しいんですよ。彼らと出会いたくなるし、彼らとの時間を共有したくなるし、彼らと友達になりたくなるんですよ。莞爾、お前の気持ちわかるよ。
西嶋が好きだ。東堂が好きだ。鳩麦さんが好きだ。南が好きだ。鳥井が好きだ。北村が好きだ(好きな順)。面白いとか、素晴らしいとかそういう言葉でなく、「好きだ」という言葉をこの作品は言いたくなる。きっと何度も読み返しては「やっぱり好きだなあ」と思うことだろう。
なんだろう、この感覚は。彼ら5人(+1)は彼らでしかないのに、なぜか自分も一緒になって彼らと大学生活を送っているような気分になる。自分が送った大学生活とはまったく似通ってないし、あの頃の自分と共通するような登場人物もいない。それでも、読んでいる間中、彼らと共に笑い、苦しみ、語り合ったような気持ちになる。大学時代とは比較にならないほどの短い時間の彼らとの交流がこれほど愛しいものになるとは自分でも思わなかった。
この作品、間違いなくいずれは映像化の話が出ると思います。でも伊坂幸太郎には絶対にその話に首を縦に振って欲しくない。映像化が嫌だ、イメージが壊れる、とかそういう話とは違う。この小説を読むことで得られるかけがえのない時間を、他の方法で代用して欲しくない。誰にも。ドラマでも映画でもなく、小説という形でこんなにも愛しい面々と出逢える喜びを知って欲しい。関係ないけど私の中では、西嶋はサンボマスターの山口の姿形をしているわけですよ。
結婚相手の親御さんに会う時の決まり文句を、私は伊坂幸太郎に送りたい。
「彼らを生み、育ててくれてありがとうございます。おかげで私は彼らと出逢うことができました」
そして同時に、自分に今、愛すべき仲間たちがいる幸運に感謝したい。『砂漠』を読み終わった直後、無性に皆に逢いたくなって家を飛び出した。なんてことはまるでない、はずだ。