『緋友禅』北森鴻(ISBN:4167679728)

旗師・冬狐堂シリーズの短編集。【陶鬼】、【「永久笑み」の少女】、【緋友禅】、【奇縁円空】の四編を収録。
【陶鬼】
因縁のあった旗師が自殺したことを知った陶子。焼き物の目利きであった彼が最後に名器を割ったという事実を信じられない陶子は彼の足跡を追う。
【「永久笑み」の少女】
とある小説の一部に出てきた「永久笑み」なる表現。陶子は作者に対してあるメッセージをこめた手紙を書く。
【緋友禅】
銀座の画廊でみつけたタペストリー。陶子はそれに一目惚れして全てを買い取るが、展示会が終わってからもタペストリーが送られて来ることはなかった。作者の元を尋ねると、彼は死んでおり、タペストリーは失われていた。数ヵ月後、陶子は思わぬ形でタペストリーと再会する。
【奇縁円空
ある骨董マニアの遺品を整理している中から出てきた円空仏。これは果たして贋作なのか?。円空の謎に新説をもって挑戦した中篇。
北森鴻の作品は文庫化されたものに関しては全て読んでいるが、ここしばらくは骨董、考古学関連にまつわるものが多く、それはそれで嫌いではないのだが、そろそろ『春の下で花死なむ』とか『メインディッシュ』のような作品が読みたくもなる。本書は骨董の世界を店舗を持たぬ旗師としていきぬく冬狐堂こと宇佐美陶子を主人公にしたシリーズだが、これまでの『狐罠』や『狐闇』が背後に大きな闇を抱えた作品だったのに対して、短編ということもあり、より骨董という世界をシンボリックに描いた作品集になっている。
それはそれで面白いし、骨董という世界をよく知る意味でも楽しめるのだが、こういった短編集であれば雅蘭堂の越名を主人公にした『孔雀狂騒曲』の方が面白く感じてしまうのは、陶子が一匹狼(狐)であるのに対し、越名が安積というパートナーを持っていることから生まれてくる掛け合い的な面白さがあるからだろう。単純に陶子というキャラを私があまり好きでないからかもしれないが。『狐闇』の時も那智、越名というキャラまで引っ張り出しておきながら主役が陶子だったことがなんとなく不満だったし。
まあそれらは小説の表のストーリー部分に関してで、裏のストーリー的にはどれも面白いです。個人的には【陶鬼】のような三角関係の話が好きですね。【緋友禅】はミステリ的には一番「ピシッ」と決まっているが、かなり早い段階で予想がついてしまうのが残念。
で、300ページ弱の本書の中で半分を占めるのが【奇縁円空】なわけですが、これなんかは円空という存在に対する新説といい、那智が出てきてもよさそうな話です。端緒となる事件、というか円空仏に対しては早々に結論が出るんですが、そこからが長い。少々ダレる部分もあるんですが円空に対する新説がなかなか面白くて読ませてくれます。
どうでもいいけど、円空の話を読んでいたら『火の鳥』の我王を思い出して仕方がなかった。あればやはり円空がモデルなのかなあ。