蹴球微熱 UEFAチャンピオンズリーグ決勝 バルセロナVSアーセナル

最多得点チームと最小失点チームの戦い、という煽りではあるが、特にどちらのチームも偏重したチームではない。そしてこの記録を生み出した特長がいわゆる「チーム力」という点で、この2チームの決勝というのは面白くなるに違いない、と思っていた。
そして運命のホイッスル。意外にも先に仕掛けてきたのはアーセナル。守備的でないとはいえ、リアクションサッカーを標榜するアーセナルにしては珍しい。特にアンリがキレキレ。おそらく世界一トラップが巧い選手だが、この日もそれを見せつける。走りながらなぜあそこでボールが止まる?そしてそれを見事に操ってシュート。得意の左45度からシュート打たれた時はヒヤヒヤでした。
対するバルサは開始からいつもならばオプションであるはずの、左エトー・真ん中ロナウジーニョの布陣。アーセナルの堅い守備陣を警戒してのことなのか。メッシが本調子でないから出場できないことも影響しているのかも。ペナルティエリア周辺まではボールが回るものの、そこから先はキャンベルとトゥーレという高い壁が聳え立ち、最後はレーマンが控えている。レーマンはドイツ代表の正GKに選ばれてから益々凄みが増して、特にキャッチングが凄いことになってる。ボールが手に吸いつくようだ。
しかし、こんな時にこそアクシデントは起こる。アーセナルがDFラインを上げた一瞬の隙を見逃さずロナウジーニョがスルーパス。それに合わせたエトーがゴールへ向かって一直線。追えないキャンベル。飛び出したレーマンの手はエトーの足に。これで一発レッドカード。チャンピオンズリーグの無失点記録を作ったレーマンが決勝の開始18分で退場という事態。こんなところまでカーンに似なくても。アーセナルは中盤のキーマンピレスを下げてGKをアルムニアに交代。
ここからがサッカーの面白いところ。サッカーは一人減って10人になったチームが必ずしも不利とは限らないスポーツだ。逆に「守る」と開き直ったチーム、しかも元々リアクションサッカーが得意のチームは、バルサに圧倒的に押されつつも肝心なところでは全ての攻撃を跳ね返す。そして鋭利なスピアーとばかりにアンリがバルサゴールを襲う。この日のアンリはホントに凄すぎだった。
そしてアーセナルが掴んだチャンスはFK。アンリの蹴ったボールにキャンベルが完璧に合わせた。バルデスは一歩も動けず。アーセナルは虎の子の一点を手に入れた。あとは守るのみ。チャンピオンズリーグで初戦以来ここまで一得点も与えていないチームにとっては「やれる」という気分になっただろう。
実際、その後も押せ押せのバルサだが、全ての攻撃は跳ね返される。ロナウジーニョもいつものキレがない。二度のFKのチャンスも枠を捉えない。エトーは切れているがそれに合わせる選手がいない。たまに訪れるアンリとリュングベリの来襲の度にドキドキだ。
この状況に対し後半ライカールトが動く、エジミウソンOUT・イニエスタIN、ファン・ボメルOUT・ラーションIN、オレゲルOUT・ベレッチIN。中盤の守備的選手を全て攻撃的選手にチェンジ。そしてこの采配が見事的中。
試合時間残り15分を切ったその時、左サイドでボールを出したエトーが猛然と前へ。イニエスタから出たボールをラーションがちょこんと方向とスピードをチェンジしてエトーがそれを角度のないところからシュート。あえて狭い方向を狙って見事ゴール。これで同点。勢いは完全にバルサへ。
その五分後、今度は右サイドでベレッチラーションへ。それをペナルティエリア内でキープしたラーションが出したボールは再びベレッチ。勢いよく蹴りこんだボールはアルムニア股間を抜けてゴール。歓喜の瞬間。ベレッチは6、7人に揉みくちゃにされていた。頭を抱えるアルムニアライカールトの采配恐るべし。
「守る」だけでは勝てなくなったアーセナルベンゲルはここでレジェスを投入。しかし、時既に遅し。守ることで体力的にも精神的にも疲れ切ったアーセナルの選手に前に出る力はもう残っていない。チャンスらしいチャンスも訪れず、そのままホイッスル。バルサ、14年振りのチャンピオンズリーグ制覇である。
勝ったからいえるが、最高に面白いゲームだった。11人対10人になったことで、逆にこの二つのチームの特長が引き出された試合になったと思う。攻めたバルサ、守ったアーセナル。どちらも最高のプレーだった。レーマンは不運だったが、これで試合が崩れるということもなく、試合としてはいい結果になったと思う。
この試合のMVPは間違いなくラーション。一点目のラストパス、二点目のアシスト、共に地味な仕事だが最高のタイミングで出していた。特に一点目は触らなくても、と思ってしまいそうだが、彼が触れなければエトーがあの形でボールを持てたかどうか。いつもならばロナウジーニョがやりそうな仕事をキッチリとやり遂げたベテランに拍手。来期は古巣に戻ることが決まっているらしいが、バルサの最後の試合で最高の仕事をしてくれた。終了直前にアルムニアに対してファールで時間稼ぎとかも泥臭いけどちゃんと仕事してくれたという印象。ありがとうラーション
そして敵ながらアンリはやっぱり凄かった。一人で全てをやってのける男。それがアンリ。守備から中盤から攻撃からアシストから得点までなんでも一人でやってのける。この凄さ。プジョルマルケスが軽々とかわされた時は見惚れてしまったよ。噂では来期バルサへ、という話もあるらしい。大歓迎である。来てくれ。いったい、攻撃の陣形がどうなるのかという贅沢な悩みで頭をいっぱいにしたい。
そんなこんなで素晴らしいゲームだった。早々に退場者が出た時はどうなることかと思ったけど、そんなことを忘れてしまう内容だった。レーマンとピレスには可哀相だけど、この二人を含めて両チームに拍手を贈りたい。素晴らしい試合をありがとう。