蹴球微熱 FIFA WORLD CUP 2006 グループE アメリカVSチェコ

タイポロジー完成形発動。
チェコの監督であるカレル・ブリュックナーは数多くいる代表監督、その中で一流監督と呼ばれる人たちの中でもかなりの変わり者だ。彼の唱える「タイポロジー」という名のサッカー哲学(トゥルシエの「フラット3」みたいなものだと思えばいい、内容はかなり違うが)は、これまでも成果を挙げてきたが、そのタイポロジーが遂に完成形に近づいた。
FIFAランキングでいえば、チェコが2位、アメリカは5位。ちなみに同組のイタリアは13位で、ガーナは48位で、このグループはグループCに負けず劣らず「死のグループ」なのである(ちなみに日本のいるグループFは、ブラジルは1位だが、クロアチアは23位、オーストラリアが79位、日本が18位である)。そのアメリカに対し、3-0の圧勝。なんだこりゃ。
タイポロジー云々の話をすると長くなるので割愛するが、簡単にいえばチェコのサッカーは、かつてのイタリア代表監督サッキが提唱した「プレッシングサッカー」をさらに発展させたもので、控えの選手も含めて、「サッカーの理想形」をまず形作り、そこに選手を当てはめていく。そして誰かが怪我やコンディション不良でダメになったとしても、そこに代わって入る選手が同じ役割を果たす、というものだと思えばよい。この試合でいえば、コラーが怪我で退場。代わりに入ったロクベンツはコラーとまったく同じ機能を果たした。そういうことである。
もちろん、選手個々の力でタイポロジーの成熟度、完成度は多少変わる。しかし、「理想形」は決して変わることはない。それがチェコのサッカーだ。そして、この日は恐ろしいまでにその「理想形」の試合を遂行した。
常にトライアングルを作り続け、決して止まることのない連動。敵に対してもトライアングルで囲み続けることによってまったく自由にさせない。アメリカは殆ど何も出来なかった。そして、奪ってからの速攻、もしくは崩し。ここでも選手が連動し、常に二人以上が動くことで相手の守備を撹乱。その結果の三得点である。
アメリカは決して弱いチームではない。しかも「アスリートサッカー」を代名詞とするように決して走り負けることをしないチームだ。しかし、彼らの直線的な動き(つまり最小限の動きなのだ)は、同時にチェコにとっては「読みやすい」動きだったのだろう。後半残り10分までほぼ完璧にアメリカは抑えられた。サイドを崩してセンタリング(アーリークロス)というアメリカの必殺の形がまったく作れなかった。
そして連動的かつ献身的なチェコの動きに翻弄されたアメリカは、「走り」でも負けた。単純な追いかけっこだったらアメリカに分があるだろう。しかし、チェコは「常に何通りかの答え」を用意することで、アメリカに簡単には走らせなかった。それがアメリカの気力も殺いだ。こんなに走れないアメリカを見たのは初めてだ。同時に、こういう「走らせない戦法」があることも教えられた。
メキシコは「ボール」に対して人が連動的に動く、それはもはや作戦などではなく、先天的に持って生まれたかのような「自然発生的な」動きだ。しかし、チェコは「練習と経験によって生み出された」動きで、連動する。同じ連動性でもこの違いは面白い。正直、今一番見たいカードはチェコ対メキシコだ。ものすごく面白い試合になる予感がする。下手するとどちらかの一方的な試合になる可能性もあるが。
このタイポロジーに、ネドベドロシツキーといった選手が加わったチェコは相当強い。ワールドカップが始まって4日、これまで9試合、18チームを見てきたが(2試合だけ見てないので)、もっとも脅威的なチームだと感じた。この完成度の高さは素晴らしい。チェコがどこまで行くのか大いに楽しみである。