蹴球微熱 FIFA WORLD CUP 2006 グループG 韓国VSトーゴ

日本と韓国の差は縮まるばかりか離れていくばかりだ。
韓国は、前半「らしくない」戦い方で入った。トーゴの中心選手であり、得点源でもあるアデバイヨール対策として、普段は4バックで戦っていたところをいきなり3バック。しかも全体的に受身の戦い方で、受けに回る余裕は感じさせた(ここが既に差)ものの、韓国らしい勢いは感じられなかった。基本的にはその「受け」は成功していたのだが、一瞬の隙、というかアフリカ選手特有のスピードにやられて思わぬ失点。試合運びが悪いとは思わないけど、どこかしっくりこない前半だった。
しかし、どこぞの代表監督とは違ってアドフォカートはきっちり動いてきた。3バックからいつもの4バックに変更。さらにベテランのアン・ジョンファン投入。これで一気に流れが変わる(この辺りの様子は解説の山本昌邦の説明が非常にわかりやすかった)。ボールの出しどころが増えて、得意の前掛かりの体制になり、これまたいつもどおりファウルも増える(やる方ももらう方も)。これでこそ韓国。
その流れの中からドリブルでパク・チソンが抜け出したところにトーゴのDFが思わずファウル。この日二枚目のイエローで退場。このFKのチャンスをイ・チョンスがしっかりと決め(この辺も某代表の誰かとは違う)同点。トーゴの人数が減ったこともあり、ここから先は完全に韓国ペース。前へ前へと押し進め、サイドを使い、トーゴを疲弊させていく。さらにアドフォカートはまたまたベテランのキム・ナミル投入。これで中盤に落ち着きも出来た。前後の揺さぶりからDFの動きが鈍ったところにアン・ジョンファンが強烈なミドル。これで逆転。
しかし、韓国の本当の進歩はここから先だ。キム・ナミルを中心に決して焦ることなく落ち着いてボールを回し始める。かつての韓国ならば血気にはやって10人の相手に怒涛の攻めを見せていただろう。それがこの試合では「逃げ切る」という作戦をとったわけだ。トーゴは完全に弄ばれていた。まあ、多少はミスもあってピンチを招くこともあったが、この「逃げ切る」という思想を韓国が身につけ実行したのは驚きだった。終了間際ではゴール前でFKのチャンスを得る。打つ気満々のイ・チョンス。そこにキム・ナミルが耳打ち。するとイ・チョンスはなんとFKをバックパスしたのだ。会場からはブーイングの嵐。おそらくは韓国サポーターですらブーイングしていたと思われる。その状況の中でも「勝つ」ことを目的とし、それを粛々と遂行する韓国の姿はとても大きな存在に見えた。ワールドカップで勝ち残る国の戦い方だった。初出場のトーゴに「ワールドカップとはこういうものだよ」と先輩が教えてあげた。そんな感じ。
ハッキリと言葉では比較しなかったが、解説の山本昌邦はところどころで韓国の選手や戦術に対し「この点が見事だ」「ここが素晴らしい」と感想を漏らしていた。それは明らかに今の日本になくて韓国にはあるところで、解説を聞いていて私も同じ気持ちにさせられた。その中でも印象に残っているのが、キム・ナミルが投入されて見事にチームを統率したのを見て、氏が、「ボランチのイ・ホはまだ21歳なんですよね。それがこういう大舞台でベテランのキム・ナミルと組むことによって大きな経験をしている。彼は大きく伸びるでしょうね」と言ったことだ。韓国はワールドカップで勝ち点を上げただけじゃなく、おそらく決勝トーナメントに向けて、フランス、スイスといった国と激しく争うだろう。もしかしたらトーナメントに残るかもしれない。そしてさらに、21歳のイ・ホ、中心選手のパク・チソンイ・チョンスは24歳なのだ。その他にもサブのメンバーに20代前半の選手がいる。つまり今大会だけではなく、次に、そのまた次にへと続く道が出来ているということだ。
翻ってもし日本がこのまま何も結果を残せないままワールドカップを終えたとき、いったい何が残るのだろう。次世代に繋ぐ道はなく、自信も身につかず終わることになる。アテネオリンピックで23歳以下を率い、「アテネ経由ドイツ行き」という言葉で選手を叱咤し、若手の育成に力を入れてきた山本昌邦だからこそ本心から思うことだろう。結果として駒野しかその飛行機には乗れなかったわけだが。
多くの点で韓国と日本は差をつけられたと痛感した試合。関係ないけど山本昌邦の解説は非常にわかりやすく適確でよかった。ジュビロの監督辞めたわけだからこれからはもっと解説者として活躍して欲しい。いや、現場でもいいけど。こういう解説者が少なすぎる。