『陽気なギャングの日常と襲撃』伊坂幸太郎 【bk1】

いやー面白かった。伊坂幸太郎の持ち味である人を食ったような軽妙な文体が最初から最後まで、それどころか章ごとの遊びにまで張り巡らされていて一気に読めてしまう。いい意味で肩の力を抜いて書かれていて、伊坂のもうひとつの持ち味である「ええ話」エッセンスが入ってないため、逆に「それが鼻につく」という人にとってはこのシリーズの方が好きという人もいるだろう。
いかにもフィクションらしいフィクションで、小説というよりも私が勝手に呼ぶところの「読み物」なわけだから、細かいことは言いっこなし。実際、粗をつつき出したらきりがないくらいある。ただまあ、そこは目を瞑って「作りごと」を楽しめばいいと思う。
前作の感想で、「もう少し四人それぞれが活かされたエピソードがあればなあ」と書いたのだが、本作は見事に最初の四篇が四人それぞれのエピソードとなっていて、正直嬉しかった。しかも一見独立したかのように見える、それらの話が結果的には本筋と絡んでくるのもさすが。というか伊坂読者なら絡んでくることは自明で読んでると思いますが。
今回はサブキャラ達もキャラ立ちまくりで、それがまた読んでて楽しい。小西・太田コンビを筆頭に、良子や門馬さんと全てのキャラがいい味出してます。
ご都合主義というよりも、運に恵まれすぎた展開だったりするのは気にならないといったら嘘ですが、そこはそれやはり目を瞑りましょうよ。
ただ、それを踏まえて唯一気に入らない点としては、作中で「誰に向かって言い訳してるんだ?」という発言があること。いや、別に田中の件だけじゃなくて、ツッコミたいところはいくらでもあるんだし、その部分にだけエクスキューズ出されても、っていうかそんなメタなことされても。逆にそれがあることで、他の気になる点まで浮き出てきちゃうんで、読者を信じて流してくださいよ。無理に止めると穴から水が漏れ出すから。
とまあ、とにかく楽しんで読む、という姿勢さえ保てれば面白さ請け合いの一冊。まだまだ続いて欲しいですな。

陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)

陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)