『水底の骨』アーロン・エルキンズ 【bk1】

ケルトン探偵ことギデオン・オリヴァーものの第11作目。シリーズの3作目くらいまでは『このミス』などでも毎回上位にランクインしたし、人気もあったと思うのだが、いったん間が開いてしまってからの復活は殆ど話題になっていない。個人的には相変わらず好きなシリーズなので、読み続けている。
図らずもシリーズが登場してからのこの20年近くの間に、ミステリ界は変容を遂げていて、本シリーズは当初とほぼ姿を変えないまま書き続けられているので、ミステリ界の変容についていけなかった(行く気もないだろうが)、ということなのだろう。それくらい、いい意味でマンネリな11作目である。
今回の舞台はハワイ。妻・ジュリー、親友のジョン・ロウというお馴染みのメンツで事件にぶち当たる。さすがに11作目ともなると、「ギデオンの行く先、事件は起こる」というのがネタにもなっているわけだが、このシリーズのよさは、あくまでもギデオンは「骨」を鑑定するわけなので、目の前で起こったばかりの事件に素人探偵が首を突っ込む、という形式にならないで済むことである。
本作では、10年前に行方不明になった人物の遺体が発見され、それをギデオンが鑑定する、というのが発端になっているわけだが、残念ながら骨の鑑定はこれだけで、あとは純粋に推理がメイン。初めてハワイ出身であることが活かされたジョンの造型もあり、事件を真っ向から推理する展開は楽しめるのだが、やはりギデオンは骨から何かを見つけ出してナンボであるので、その部分に関しては物足りなさが残ったことも事実。
とはいえ、このシリーズを通しての魅力である軽い雰囲気とギデオン、ジュリー、ジョンの会話、そして人を食ったような展開は、いつもながらの面白さを提供はしてくれる。派手ではないし、尖った部分もないが、安心して読める。シリーズ中期の作品にはやや無理やりな感もあったのが、ここにきてまた安定感は増した感すらある。
骨がもたらす真相については、予想通りのオチが待っているのだが、逆にそれがなんとも心地よい。気を張って読むタイプのミステリではないが、気楽に読めて楽しいこのシリーズは、現代のミステリの中では貴重なシリーズだと思う。本格(?)だしね。

水底の骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

水底の骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫)